ケンカ
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ガッ!!

かわす間もなく、本多の拳が顎にヒットしていた。
勢いに任せて振り抜かれ、眼鏡が外れて宙を舞う。

【克哉】「っ…」

【本多】「言いたい放題いいやがって…」

殴られた衝撃で、頭がガンガンする。
視界が揺らぎ、ぼやけ、なかなか元に戻らない。

それでもなんとか目の焦点を合わせると、すぐ目の前に睨みつけてくる本多の顔がある。

【克哉】(殴られたのか…)

剥き出しの憎悪を顔に映した本多を見るのがいやで、克哉はふいと視線を逸らせた。

地面の上に、開いたままの形で、眼鏡が転がっている。
壊れた様子はなさそうだ。
ホッとしながら身を捩り、本多から離れようとする。

【本多】「こっちを見ろっ! まだ話は終わってない!!」

【克哉】「………」

うんざりだった。
こんな状況には。

どうして本多に、殴られなくてはいけないんだ?
なんで、こんなふうに問いつめられなくちゃいけないんだ?

怒らせるだけのことをしたという自覚はあるが、それがどうした。
なにもかもが馬鹿馬鹿しい。

【克哉】「離せよ。本多」

ゆっくりと手を持ち上げて、シャツを掴む本多の手首を取った。
そのまま引き離すと、それは案外素直に外れる。

【克哉】「…もう、うんざりだ」

【本多】「なんだと?」

【克哉】「うんざりなんだよ。今までの俺にも」

【克哉】「それから、お前にもだ」

【本多】「………」

睨みつける本多を無視して、克哉は腰を屈め、落ちた眼鏡を拾い上げた。
それは傷どころか、埃1つつくことなく、街灯の光を冷たく反射している。

【克哉】 「俺は変わるんだ。もう、今までの俺じゃない」

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