君だけなんだ
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【克哉】「そうだな。あんたの言うとおりだ」

【片桐】「そんな…」

片桐の目に、涙が浮かぶ。しかしそれはすぐに、激しくなり始めた雨の雫に混じり、片桐の頬を伝い流されていく。

【克哉】「勘違いするな。俺は、ただの暇つぶしにあんたの相手をしていただけだ」

【克哉】「それ以外の意味なんてない」

【片桐】「佐伯くん……」

降りしきる雨の中、片桐は震える手でジャケットを掴み、膝をついたまま動こうとしない。
いくら上着を掴まれているからとはいえ、突き飛ばしてしまえば、あっさりと離れるはずだ。

なのに、それが出来なかった。泣きながら、必死な様子で見上げてくる男の顔から、視線を逸らせることさえ出来なかった。

【克哉】(そういえば、こいつのこんな顔を見るのは、初めてだな)

仕事中、社内の人間や取引先からどんなにないがしろにされても、片桐がこんなに感情を剥き出しにして、訴えることなど1度もなかった。いつだって、諦めたような笑みを浮かべ、ため息一つですませていた男なのに。

【片桐】「お願いだ。お願いだから、僕を…」

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