この状態でも藤堂は俺の言葉を待っている。何もかもわかっているくせに。俺のしてほしいことなど、俺以上に知ってるくせに。
「……欲しい」
「何が?」
眼鏡の奥の瞳が鈍く光る。ぺろりと己の唇を嘗める舌の生々しい動きと感触に、背筋がぞくりと震え上がる。藤堂の視線と口調、声音に仕草のすべてに、翻弄され魅せられ満たされている。
「……藤堂が欲しい」
直に触れて触れられるよりも、藤堂自身を感じたい。
火傷しそうな灼熱を身の内に感じて、その熱に溶かされたい。さっき体に押しつけられ溶けてしまったチョコレートのように、甘く熱くどろどろになって藤堂に飲み込まれてしまいたい衝動に駆られる。
「どこに?」
執拗に体を嘗め上げながら問われる。小さな舌の突起のひとつひとつが、淫らな快感を生み出していく。
「ここ、か」
乳首をいじっていた指が腹へ移動し、服の中で浅ましく収縮するそこを刺激してくる。軽く上下させ中心に突き立てるが如く動きに、藤堂自身を挿入されたときの感覚を想像して、ぎゅっと窄めてしまう。
でもそこには何もなく、満たされない快楽に体が戦慄く。熱い肉が欲しい。熟れた俺の体の内側を擦り上げ、淫らな熱を生み出してほしい。
自分では絶対得ることのない、そして自分一人ではたどり着くことのない、至上の快楽が欲しい。
「そこ」
小さい声で頷く。
「ここにどうする?」
「藤堂のものを、挿れて欲しい」
羞恥をかなぐり捨てて、己の欲望をはっきりと口にすると、藤堂が満足そうに笑った。
「……いやらしいな、赤井。そんなに俺が欲しいのか」
誰のせいで、こんなになったのか。
口を突きそうになる文句をぐっと堪える。
「欲しいよ、藤堂が」
今はただ早く藤堂が欲しい。出口のないままに体を走り抜ける欲望を発散せたい。藤堂と抱き合い、彼の温もりを感じて、何も考えられなくなりたい。
「……それなら、俺がその気になるようにしてくれ」
藤堂は俺の髪をぐっと握り、己の下肢へと導く。下ろされたパンツのファスナーの間から導き出される藤堂自身を目にした刹那、俺は無意識に唾液を飲み干していた。
そしてチョコレートより熱く甘い藤堂のものを嘗めるために、俺はそっと舌を伸ばした。