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【興】「たのしい? あすか」
筆を握る自分の手を、重ね持った興さんが、笑いかけてくる。
先程から、興さんの手は、全く迷うことなく軽やかに俺を導いていた。
そして、隣に並べた絵と寸分も違わない絵が描きあがっていく。
【明日叶】「どうして興さんは、こんなに完璧な贋作が作れるんですか?」
まっ白なキャンバスには、種も仕掛けもない。興さんだけが見える魔法でもかかってるんじゃないかと思ってしまうくらいだ。
【興】「おれにはわかるから」
【明日叶】「わかるって……何が?」
【興】「どの色を、どこに置けばいいか」
以前、興さんは、見ただけで物の正確な大きさ、比率、距離がわかるといっていた。
でも、どうして、興さんには、それがわかるんだろう。
【興】「見れば、わかる。それがふつう」
【明日叶】「ふつう、ですか」
【興】「そう、ふつう。息をする、歩くのとおなじ」
ブツリ、ブツリと単語を切る興さん特有の話し方。
でも、それが興さんなりに、俺に伝えようと選んでくれている言葉なんだ。
そして、興さんは拗ねたように唇を尖らす。
【興】「どうしてみんな、わからない?」
【明日叶】「……!」
ああ……、同じだ。
俺もトゥルーアイズのことをそんな風に感じていた。
見ればわかる。
それが普通。
普通だから、何故? と聞かれても説明できない。
伝えられない。
(そして、嘘つきと呼ばれた)
つかの間、ひらめく苦い記憶に奥歯を噛みしめる。
【明日叶】「………っ」
【興】「あすか」
【明日叶】「はい…」
視線を向けると、興さんは笑っていた。
まるで、秘密基地を見つけた子供みたいに。
【興】「あすかも、そうだろ?」
【明日叶】「え……」