+甘い微熱+P12


昼休み、俺は寮へと向かっていた。
通り過ぎる学生たちが、大荷物を抱えている俺に目を丸くする。
気遣ってくれたのは、慧だけじゃない。太陽も、亮一さんも、みんな、ディオが休みだと知ると心配して、いろいろなものを持たせてくれた。
いまごろ、ディオは眠っているだろうか。熱のせいでつらいだろうか。昨日の俺みたいにぼんやり天井を眺めているだろうか。
この見舞いの品々を目にしたら、ディオはどんな顔をするんだろう?
みんなが案じていることを鼻で笑うかもしれないし、『どうでもいい』なんて突き放すかもしれない。
でも、ディオ、俺だって心配してるんだ。風邪をうつしてしまって悪いと思ってるし、早く元気になってほしい。
もとはといえば、ディオが無茶をしなければこんなことにはならなかったんだけど……。
しかめ面をすべきか、笑うべきかわからないまま、ディオの部屋の前に立った。あたりはしんと静まり返っている。
どうしようか。
ちょっと考えをめぐらせ、大荷物をなんとか左手に持ち替えて、扉をノックした。

「ディオ、俺だよ。起きてるか?」
「……明日叶か? 入れよ」

いつになく掠れた声を扉越しに聞いて、決めた。
素っ気なくあしらうことはしない。怒ることも、嘲笑うことも、しない。
風邪を引いているからキスはしてあげられないけど、大切にしよう。
いまの俺にできる精一杯のことを、ディオに。
こんなときじゃなければ、なんでもひとりで完璧にこなせてしまうディオの世話なんてできないだろうし。
――おまえがしてほしいって思うことを、全部叶えられるかどうかわからないけど、俺は俺なりに、なんとかしてみせるから。

「見舞いに来たんだ、ディオ。具合、どうだ?」

不謹慎かもしれないけど、満たされた気持ちで微笑みながら、午後の光が射し込むディオの部屋の扉を開けた。

END

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