闇が見えた。
いや、あれは闇ではない。
木々がうるさいほどにざわざわと大きな音を立てる。その音を聞きながら、闇だと思ったそこを見つめる。
やがてそこに踵までの長さのある黒のコートに身を包んだ、長身の男が浮かび上がる。
鬱陶しそうに髪をかき上げたその男が顔を上げた瞬間、俺の全身に震えが走る。見たものを石に変えてしまうメデューサの瞳よりも冷酷で、嘗めるような視線。
黒の手袋をはめた指の間には、煙草。鋭角的な顎を覆う髭のある口元がにやりと酷薄な笑みを刻むと、白い煙が揺れる。
指の先で煙草を弾くと、そのままゆっくりスローモーションのように砂利の上に落ちていく。微かに残る先端の炎を、尖った靴の先で踏みつける。
ぐしゃり──へし折れる音が聞こえてくる。その乱暴な動きはまるで、最後の息を灯そうともがく生き物の息の根を止めるかのように、残酷で無慈悲だった。
そしてわずかに目を細めて男が見つめている相手は……。