+甘い微熱+P11


「慧、昨日はリンゴジュース、ありがとう。おかげで風邪、治ったよ」
「そうか、よかったな」

翌日、一般教養教室で顔を合わせた慧に礼を言うと、安心したような笑顔が返ってきた。でも、すぐにいつもの無表情に戻る。

「あいつはどうした?」
「あいつ? あ、……ああ、ディオは、うん、……その、風邪、引いたみたいで、今日は休むって」
「……あいつに、うつったのか?」

ディオに風邪がうつすようなことをしてしまった昨日のことを思い出して、治った風邪がぶり返すように顔が火照ってくる。
あのあとも、たくさんはちみつを舐めさせられて、喉もすっかりよくなったけど、ベタベタのシーツを取り替えたり、俺の汗を拭いたりしているうちに、ディオはすっかり身体を冷やしてしまったらしい。めずらしく俺を抱き枕にしないで自分の部屋に戻っていったと思ったら、朝にはすっかり病人になっていた。

「みんなとのじゃんけんにも負けるし、俺の風邪はうつされるし、ディオにとっては災難だったかもな」
「じゃんけん?」

慧が不思議そうに、眉を寄せた。あれ、慧は参加してないのか……?

「みんなでじゃんけんして負けたから、ディオが看病に来たんだろ?」
「俺たちは、じゃんけんなんかしてない」
「え?」

わけがわからない俺に、慧が説明してくれた。
俺の部屋から出たあと、みんなで寮を出てバスを待っていたあいだ、ディオがやっぱり看病に戻ると言い出したらしい。

「明日叶を看病したい気持ちはみんな同じだ。でも、そんなことをしたら明日叶が気にするから、誰かひとりで十分だという、あいつの意見にも賛成だった」
「そうだったんだ……」
「それに、明日叶のそばにいられるのは『恋人の特権だ』と」
「……それ、ディオが言ったのか」
「ああ」

頷く慧に、顔が赤くなる。
人前で平気でそういうことを言うのは、いつものディオだけど……、やっぱりどうしようもなく恥ずかしい。しかも、ただ恥ずかしいだけじゃなくて、嬉しくもあるから困る。
じゃんけんで負けて看病にきたっていうのは、嘘だったんだ。ディオがスケートに行かなかったと知ったら、俺が気にすると思ったんだろう。
嘘つきなディオ。俺のことを素直じゃないっておまえはよく言うけど、おまえだって全然素直なんかじゃない。

「不本意だが、今回は譲ってやった。お前がいま一番そばにいて欲しいのは、あいつだと思ったから」
「慧……」
「あいつの看病にいくなら、……これを持っていけ」

慧に手渡されたのは、リンゴジュースの缶だ。
……もしかして、これ、俺が治るまで届けてくれるつもりだったのかな。

「ありがとう、ディオに渡すよ」

微笑んで、俺は甘酸っぱいリンゴジュースを受け取った。

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