+甘い微熱+P5


「はぁ……」

ため息をついて、天井を見上げた。カーテン越しに冬の弱い光が差し込んで、窓に明るい模様を描いている。

「もう、みんなスケート場に着いた頃かな……」

ディオたちが部屋を出ていってから、もう三十分は過ぎただろうか。
ひとりになるとやけに部屋を広く感じるのは、やっぱり、風邪を引いたせいかもしれない。身体が思うように動かないと気まで弱くなってしまうし、重く熱い頭はなんだか同じようなことをぐるぐると考えてしまう。
ちいさい頃の俺はちょっとしたことで熱を出しやすくて、よくこうしてベッドでひとり眠っていた。熱に浮かされた浅い眠りから目が覚めると、世界でひとりぼっちになってしまったような錯覚に陥って、心細くて仕方なかった。
午前の光が差し込む静かな部屋でひとり寝ていると、そんなことを思い出す。
もちろん、いまは誰かがそばにいないと心細いほど、子どもじゃないけれど。

「退屈だな……」

考えてみれば、この学園に来てから、こんなふうにひとりぼっちの時間をもてあますことはほとんどなかった気がする。訓練で忙しかったり、ミッションのことで頭がいっぱいだったり、それから――いつだって、ディオと一緒にいたし。
そういえば、このベッドでひとりで寝るのだって、ほんとうにひさしぶりだ。

「だから、部屋が広く感じるのか……」

いつもふたりでいる空間にひとりきりだから、こんな妙な気分になるんだろう。
余計なことを考えるくらいならば眠ってしまえと目を閉じるけれど、明るすぎるせいか、上手く寝付けない。

「……俺も、スケートに行きたかったな」

「じゃあ、今度一緒に行こうぜ」

かすかな声で呟いたはずなのに、予想外の応えが返ってくる。振り向けば、開いた扉からディオが顔をのぞかせていた。

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