+甘い微熱+P7


「ほーら、暴れるからだぜ? おとなしくしてろって」

誰のせいで暴れたんだ。そう言い返してやりたかったけれど、咳のせいでしゃべることもできない。
咳のあいだじゅう、ディオはずっと静かに背中をさすってくれていた。
余計なことをしたな、とそのちょっと眉をしかめた顔が語っている。そんな表情を見たら、それ以上言い返す気にはなれなかった。

「ありがとう……もう平気だ」

しばらくすると、ようやく咳が治まった。ぐったりと寝そべると、毛布をかけ直してくれたディオが、俺の息が整うのを見計らって声をかけてきた。

「ちょっと口、開けてみろ」
「うん」

親指と人差し指で顎を掴まれ、口を開いた。

「あー、まだ喉の奥が炎症を起こしてるみたいだな」

言いながら、ディオが小さな瓶をポケットから取り出した。蓋をねじ開けると、甘く濃厚な香りが鼻先をくすぐる。

「……はちみつ?」
「そう。咳が出るときは、これがいいんだよ。喉の炎症が治まる。騙されたと思って、試してみな?」

そう言ってディオは瓶に指を突っ込んだ。そのまま、黄金色のはちみつを指に絡める

「ほら、舐めろよ」

その指先を、俺はじっと見つめ返した。舐めるって……この指を、だろうか。

「……机の引き出しに、スプーンがあるけど」
「面倒くせえよ。このままだと、シーツに垂れるぞ? ほら、あーん、してみな。あーん」
「子ども扱い、するなよ」
「してねえって。マジで、おまえを心配してるだけだ。のど飴みたいなもんだよ」

ほら早く、とうながす声に渋々と口を開けた。
くちびるの隙間に、ぬるりとディオの指が入ってくると同時に、甘いはちみつの香りと味が口内に広がった。じわりと唾液が滲み出てくるのを、思わず飲み下す。横たわった身体中に甘さがじわりと染みこむようだ。

ゴクリと喉が動くのを、ディオがじっと見ているのがわかる。

それがなんだか恥ずかしくて、目が合わせられない。

ゆっくりと丁寧に、頬の粘膜へとすりつけるように、はちみつが塗り込まれる。その甘さに唾液が溢れてきて、何度も何度も唾を飲み下した。そのたび、静かな部屋に嚥下の音が響くようで、恥ずかしさに顔が赤くなっていく。

ディオの硬く長い指が、咳き込ませないように慎重な動きで、口の中をなぞる。

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