+甘い微熱+P8


「熱があるな……。熱い」

そんな囁きに、動悸が高まってしまう。甘すぎるはちみつのせいか、ひどく喉が渇いていた。何度も何度も、唾を飲み込む。覗き込んでくるディオの髪が頬に触れる。
キスをされるのか、と思わず目をつぶったけれど、それ以上のことはされなかった。
そろそろと瞼を開けると、俺のくちびるから引き抜いた指を、ディオが見せつけるように舌を伸ばして舐めるのが視界に飛び込んできた。
赤く、厚い舌が、唾液とはちみつでトロリと濡れた指を、ゆっくりとなぞっていく。
目を離すこともできず、声も出せず、ただその動きに支配される。
ディオが濡れた指で軽くくちびるに触れてきて、ようやく止めていた息を吐き出した

「甘いな」
「……甘すぎる」

ディオの表情は平然としたもので、ひとりで興奮しかかった自分がバカみたいだ。憮然として、ぶっきらぼうな返事をしたけれど、ディオは楽しそうな笑みを崩さない。
でも、確かに息苦しさは少し薄れたみたいで、前より喉は楽になっていた。
そう言うと、ディオは当然だと頷いた。聞けば、ディオの実家では昔からは咳止めにははちみつ、というのがセオリーらしい。民間療法だが、意外に効くだろう? というディオの言葉はほんとうだったんだ。

「なに疑ってんだよ、明日叶」
「だって……ディオが、ちゃんと看病してくれるとは思わなかったから」
「ずいぶんな言いようだな。弱ってるおまえにつけ込んでエロいことをするとでも思ったか?」
「ちょっと……思った」
「俺は紳士なんだよ。病気につけ込むなんて、卑怯なマネはしない」
「嘘つけ。詐欺師のくせに」
「いまさら言うなよ。それに、つまんねえじゃねえか。風邪引いてんだから、いつもと違うプレイをしようぜ? とことん優しくしてやるよ、明日叶。弱ってるお前にかしずいて、お姫様のように大切に扱ってやる」
「……いい。遠慮する」
「じゃあ、早く元気になれよ」

ちいさな笑い声を立てながら、ディオが額にくちづけてきた。
いつもよりずっと、温かいキス。恋人だけがしてくれる、熱のこもった甘いくちづけだ。
俺を気遣ってくれることがわかるキスがくすぐったくて、嬉しくて、俺も釣られて口元をほころばせてしまった。

「……ディオ、ありがとう」

すんなりと礼が言えたのは、やっぱり熱のせいかもしれない。
そんな俺にディオはちょっと目を瞠り、さらに身を乗り出してきた。

「めずらしく素直だな、ガッティーノ。可愛いぜ?」

もう一度、くちびるが触れる。そのまま舌で軽く舐められて、首を振った。

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